流れ作業の工場で熟練の職人の手さばきを見ていると、あまりにも無駄がなさ過ぎて、「えっ、いま本当に作業した?」と言いたくなるときがある。なんかもう、実際に作業をしなくても、あなたが触ったものはオートメーションで完成形になるようになってるんじゃないの、なんか世界とそういう密約ができあがってるんじゃないの、と。
なぜ急にそんなことを言い出したかと言えば、この1ヶ月ほど、年末進行ということもあり、労働がわりと忙しかったのである。プールにもあまり行けていないし(寒さと暗さのせいもあるが)、日記も今月は20日にして4記事しか投稿できていない(ピンチだ)。
そんな日々の中で、ふと気が付いたら、前回(11月15日付)の記事で紹介したシュレディンガー水着が、14枚できあがっていた。
われながら驚いた。そして熟練工に抱いた気持ちを思い出したのだった。もちろん作った本人としては、自然にできてるんじゃねえよ作業してんだよ、という話なのだが、傍から見ればこれはほぼオートメーションの世界であろうと思う。僕が触ったハイテンション生地は、生地のほうから進んで水着になろうとする。もはやその境地に入ったのかもしれない。
ちなみにこの1ヶ月あまりの遊泳回数はいかほどかと言うと、8回だったりする。遊泳が製作に追いついていない。まるで物価上昇と賃上げのようですね。
さてそんなふうに、生地が勝手にその形になろうとするシュレディンガー水着なのだけど、それまでの新々パターンが8:2でボックス型水着だとするならば、こちらは一転、2:8でビキニ型水着であると言え、もはや猫が生存する可能性はきわめて低い。
そんなに気になるんなら開けちゃえよ。
Nobitattle.
猫が生存する可能性が低いということはどういうことかと言うと、僕はビキニ型の水着で泳ぐのはさすがに羞恥心により憚られ、そのために開発したのがシュレディンガー水着であったわけで、じゃあ猫はほぼ死んでいるのだとすれば、やっぱりこれはほぼほぼビキニ型ということになり、どうしたって居心地が悪いよ、ということなのである。自意識過剰だということは分かっているが、なにより大事なのは自分の感覚なわけで、この1ヶ月この水着で泳いだ結果、自分の感覚が警告信号を発し続ける以上、ちょっとシュレディンガー水着は度を超えていたようだと言わざるを得ない。14枚も作っておいて! と思われるかもしれないが、別に二度と穿かないわけではないし(新月の晩には穿く)、そもそも作ったという自覚もない。生地を手のひらで揉んだらあの形になったに過ぎないのだから。
それでは今後の製作としては、新々パターンに舞い戻るのか、と言われると、しかしこれがなかなかそうもいかない。いちどシュレディンガってしまったら、そうそう元通りにはなれない。不倫と一緒だ。表面上は赦されても、絶対に修復できない亀裂が入っているのだ。
新々パターンのサイド幅が、7.2cmだった。それに対してシュレディンガー水着が4.8cm。この中間、すなわち6cmくらいが、落とし所として適当なのではないか、猫がちょうど半透明になる感じなのではないか、と考えている。
シュレディンガー水着は、販売用は結局まるで作らなかった(だって年末進行で忙しかったんだもん!)。年末年始の休みでは、販売用も含めてたくさん作れればいいと思っていて、それに向けて満足のいく型紙が引ければいいな、と思う。


