夏マスク

 
 「この夏のマスクが蒸れるをとめごにノーブラ登校特別措置法」という短歌を以前にTwitterで詠んだが、春に作った布マスクがとても暑いので、もうちょっと薄い感じの夏仕様のものを作ることにした。そもそも春のそれが、暑いとか以前の問題として、何十回もの洗濯を繰り返した結果、だいぶくたびれてきたというのもある。マスクは、一時期に較べて供給が安定し、どう考えてもぼったくりだった価格も是正されつつあるとはいえ、1年前までは50枚入って398円とかだったものが、それでもどんなに安くとも2000円くらいはしていて、ウィズコロナ時代はそういうもんなんだ、といわれても、肌感覚として未だに受け入れることができないのだった。
 そしてなにより、夏用マスクを作製するにあたって、目下めちゃくちゃ無職である、というのも取り組むきっかけとして大きかった。時間はたっぷりあるのだ。すきま時間とか探さなくていいのだ。だからじっくり腰を据え、大量生産した。


 形はもちろん真ん中高のプリーツ型。最後に畳んだ状態で左右を縫っているとは言え、プリーツはアイロンで仕立てているため、洗濯を重ねるとだんだんどうしたって折り目が乱れてくる。だから実は、布マスクの場合は、ひだ構造ではない立体型のほうが適していると思う。でもやっぱり立体型マスクは理念として嫌いなので、今回もこの形にした。
 表布は、「黄色と青の水玉」と「青だけの水玉」、そして「寒色系矢絣」と「黒系矢絣」の4種。後者はそこまで薄い生地ではないのだが、前者はかなり薄手で、デザインも涼しげなので夏用マスクにぴったりだ。
 また春のマスクは裏布のダブルガーゼが、やっとのことで手に入った白のそれだったが、こちらも不織布マスクと同じで供給に余裕が出てきたのか、カラフルなものが手に入ったのでそれを何種類か使った。さらにはこのガーゼには冷感機能なんて効果もあるそうで、春のあのバタバタした時期、やっとこさ材料を揃えてのマスク製作を体験した身としては、隔世の感がある。非常時とは選択肢がなくなることなのだな、としみじみと感じる。
 加えてゴムもまた、写真を見れば分かるように、何色かある。これには別に特別な機能があるわけではないが、いろいろな色が売られていたので、じゃあ何色か使おう、と思ってそうした。
 さらにさらに、今回からのマスクで最も特筆すべき点は、左右のゴムの先端にあるプラスチックパーツだろう。そうなのだ、今作からストッパーを導入したのだ。春マスクや、そのあと実はちょいちょい作ったマスクにおいて、ゴムの長さというのは懸案としてずっとあった。布の裁断は「一般用(主に男性用)」「小さめ(主に女性用)」「子ども用」と、不織布のそれを踏襲して3通りであり、ゴムもそれぞれに合わせて長さを決めたが、「千と千尋の神隠し」の湯婆婆みたいな顔面をした僕の祖母と、細面のファルマンが、同じ長さのゴムでいいはずがないのである(じゃあ国家マスクはどうなんだ、という話だが)。それがこのストッパーによって解決した。これまでも存在は知っていたのだが、リュックサックかよ、みたいな大仰なものしか見たことがなくて、あんな大袈裟なものは着けたくないな、と手を出さずにいたのだが、今回とても簡素な、シュッとしたものを見つけたため、これならばいいと思って採用した。ちなみにこれも色とりどりである。
 そんなわけで、3ヶ月前に較べてとても進化したものが作れ、満足している。なんてったってバリエーションの多さだ。表布4種類、ガーゼ8種類、ゴム4種類、ストッパー9種類。すなわち1152通り。もちろん1152枚は作っていない。買ったストッパーが、9色各10個合計90個入りだったので、マスク45枚分あるということになるが、手元に4つだけそれが残ったので、じゃあ43枚作った。だいぶ作ったことだな。
 そして今回も双方の実家や、妹の家などに送付した。タダで送付せず売ればいいのに、お金払うよ、などと実家の面々から言われたりするが、マスクは売らない。恩を売るのだ。タダより高いものはない例のやつだ。