母の日エプロン


 母の日になにを贈るかで悩むともなく悩んでいたら、母の日の10日前くらいに、「エプロンを作ってくれ」という本人からのリクエストがあり、「母の日には間に合わんよ」という断りを入れて、製作することにした。
 母は家に物を増やすのが嫌いなので、母の日のプレゼントには毎年頭を悩ませる。なのでこうして希望を出してくれるととてもありがたい。しかも、「丈は膝くらい。紐で縛るのは服が皺になるから嫌」という注文まであり、あとはもう母の好きそうな生地を用意して、「こういうことだろっ」みたいなものを作るだけだった。
 作るだけ、とはいったものの、1枚物のエプロンながら、いざ作ってみたらそれなりに時間が掛かり、もちろん裁縫なので愉しくはあったのだけど、既製品って尊いな、とも思った。既製品に対して、手作りの品には思いが込められている、などとよくいうけれど、それは「思い」と書いて、「時給」や「人件費」といったルビが振られるのだな、ということをいまさらながら思った。
 エプロンは生地を大きく使うため、いざ本番用のもので作ってみたら微妙、では困るので、まずは別の布でサンプル縫いをした。それがこちらである。


 謎の斜めポーズを取っているのはファルマンである。細腕。
 生地はバッグを作るためにちょっと前にネットで買ったもので、いざ手元に届いたらイメージと違い、使いあぐねていたものを使った。エプロンなら悪くないと思う。


 背面はこんなふう。紐どころかボタンさえない。肩ベルトを交差させることで身に纏わせるデザイン。固定させないので着心地はどうなのかと思ったが、悪くないようだ。ちなみにファルマンが着ているのはB'zの大昔のライブTシャツである。話の焦点がブレるのでそんなの着ないでほしい。


 こだわりはポケットの柄合わせ。ポケットを、付けていないかのようだろう。エプロンなのでポケットは必須だ。左右にだいぶ大きいものを付けている。しかし生地の節約を度外視で柄合わせに心血を注いだため、遠目にはポケットがないかのように見える。右下にパパポッケロゴがあるので、それで存在が判る。
 これが完成したのが5月8日、母の日の前日のことで、断っておいた通り、母の日に本チャンは間に合わない。しかし翌日にファルマンと子どもたちは実家に顔を出しに行くというので、じゃあ義理の息子から義母へのプレゼントってことでこれをあげようか、ということになり、持っていってもらった。もちろんそもそもはサンプル品だ、なんてことはおくびにも出さない。しかしおくびにも出さないと、本当に思いを込めて義母のために義理の息子がエプロンを手作りした感じになり、若干そのほうが不穏な気もする。とりあえず義母からはその夜にお礼のLINEが届いた。「ポケットの柄合わせにこだわりを感じ取っていただけたら幸いです」と返信した。すると「素晴らしい!」という返事が来た。完全に言わせた形だ。
 そのあといよいよ母のほうの製作に取り掛かる。取り掛かったところで、「同じ生地でアームカバーも作って」というさらなる注文が入り、それも作った。
 完成品はこちら。


 スプーンとフォークの柄と、なんか凝ったげなドットの柄。薄いのと濃いのの2枚。



 どちらもポイントは、ポケットの柄合わせである。逆に言えばこのエプロンに、それ以外のポイントはほぼ存在しない(肩ベルトのダブルステッチも多少はポイント)。いい感じの生地なので、本当は自分の今後の製作のためにもっと余らせたかったのだが、特に凝ったげなドットのほうは、ポケットの柄を合わせるために、だいぶんもったいない裁断をするはめになった。でもしょうがない。柄を合わせないと、僕は死ぬから。


 そして希望通り、アームカバーもそれぞれ作る。アームカバーほど、機能性とダサさが高水準で共存するものを他に知らない。いや、すぐには思い浮かばないだけで、そういうものは世の中にいくらでもある気もする。
 これが完成したのが母の日の翌日のことで、11日に発送し、今日あちらに届いた。それで母から先ほどお礼のLINEが届いた。柄も含め、気に入った様子だ(まさか「趣味じゃない」とも言ってこないだろうが)。「ポケットの柄合わせにこだわりを感じ取っていただきたい」と返信したところ、「おお、プロっぽいね」という返事が来た。また言わせた。
 実母はもちろん、期せずして義母のポイントまで稼ぎ、今年はなかなかいい母の日となった。