キャスケット その3


 キャスケット帽をまた作る。これまでのふたつは、ダイソーのポリエステル混じりの安物とはいえ、一応ウール的な生地だったので、これからの季節に被ることはできない。ということで今回は、普通のコットン素材の布で作った。



 モデルはファルマン。ファルマンがこういう帽子を被っていると、もはや間違いなくこの世で僕しか覚えていないことだけど、「PuroPera」のことを思い出す。もっとも正確なことを言うと、あの番組でキャスケットを被っていたのは僕で、ファルマン(オドオドさん)は、クロッシェだった。しかし僕のキャスケットがブリムごとの色違いであったのに対し、ファルマンのクロッシェは色が同心円で層になっているようなデザインだったので、そういう意味でこのデザインの帽子を被っているファルマンを見て「PuroPera」を想起するのはやはり正しいとも言える。どちらにせよ話題があまりにもマニアックすぎやしないか。


 後ろというか、頭頂部からの見た目はこのような感じ。柄がとても上手に裁たれ、縫い合わされているのが一目でわかる。なかなかいい出来である。
 この生地ってあの生地よね、とピンと来た人もまた、僕以外にいないと思うけれど(記憶がひとりぼっちで哀しい)、これは今年の年明けにminneに出品した、グラニー風トートバッグの内側の布に使用した生地である。とはいえあの生地を、今回の帽子のためにわざわざ裁断したわけではなく、そのバッグ作りの際に、カットとカットの間にどうしても無駄な残布が出てしまって、もったいないなあと感じていたのを、これはキャスケットのクラウンを取るのにちょうどいいのではないかとひらめいて、取ることにした次第である。
 

 図解するとこのような感じで、赤い楕円がバッグの裁断で、紫色の三角形がキャスケットのクラウンである。柄が上手に裁たれていると書いたが、バッグのそれを規則正しく裁断した限り、その隙間で取るクラウンも自ずと柄が統一されるわけである。これは残布の有効活用という意味でも、やっていてとても快感だった。バッグしか取れないはずの布量でキャスケットが生み出せたのだから、丸儲けだとも思った。
 この作業をしながら、岡山の縫製工場に勤めていた頃のことを思い出した。まだ会社が本格的に傾く前だったが、あるとき社長に声を掛けられ、僕が手芸などすることを知っていたらしく、「裁断で出る残布でなにか別のものが作れたりしないかなあ」と相談されたことがあった。しかしその頃の僕は、ヒット君人形作りにばかりかまけていたので、それ以外の発想はまるで出てこず、社長にいい答えを示すことはできなかった。帽子だったんじゃないか、と5年以上の時を経て、あまりにも手遅れに、思い至った。扱っていたのは高級コートで、カシミアやアンゴラなど、いい生地を使っていたので、あれで帽子を作ったらけっこうよかったんじゃないか、コートと共布のキャスケットって、ファッションスタイルとして、もしかしたらありなんじゃないか、などと今さら思っても詮無いことを思ったりした。
 そんなちょっと切ない気持ちにさせる、やけにここ10年のことを思い出させがちな帽子となった。