ビキニショーツ製作漫談 1


 顔パンツを巡る冒険の果てに、顔パンツと同じ生地で本当のパンツ、すなわちインナーを作ったら、穿いているインナーを世間に公開しながら街を闊歩できることになって、人類がまだあまり味わったことのない快楽が得られるのではないか、という境地に至った。境地に至り、そこがゴールかと思っていたら、さらにその先に隠し通路があって、それを進んだ向こう側には、顔パンツとかもはや関係なくいろんな生地でインナーを作るのめっちゃ愉しい、の世界が広がっていた。ということで近ごろはもっぱら、マスクを作る生地も時間も惜しんで、ただインナーを作っている。すっかり趣味になった。僕はいろいろするわりに、「趣味は?」と訊ねられたとき、これだ、と答えられる趣味らしい趣味がなかったが、ようやく手に入れることができた。僕はインナーを作るのが趣味だ。
 趣味なので、これの作製報告記事は単発ではなく、今後も繰り返し書かれることとなる。多彩な生地を用いて作ったインナーの数々を画像で紹介しながら、その製作にまつわる思いやエピソード、発見などを、つらつらと綴っていきたい。ちなみに顔パンツを巡る冒険の最後の記事で記したように、このGoogleのブログでは、インナーをインナーらしい形で写した画像をアップすることはできないので、適当に丸めた形になってしまうことはご了承いただきたい。ましてや着用姿などもってのほかである。
 
グレーと白と黄色という色味がかわいらしい。
微妙に起毛している生地だが、暑苦しいということはない。
縦にも横にもよく伸びるので穿き心地がいい。

 インナーにはいろいろなタイプがあるが、僕が愛好しているのはビキニショーツと呼ばれるものである。世の中の男性の多くがそうであるように、幼少期は白いブリーフで、中学生あたりにトランクスとなり、高校生くらいからボクサーパンツへと変遷した。たぶんこれは時代性もあり、僕よりも上の世代はブリーフがゴールだったり、トランクスがゴールだったりもする。逆に下の世代は、ブリーフのあとトランクスを経ずにボクサーパンツへと移っているのではないかとも思う。それからボクサーパンツの時代は長く続いた。

ショッキングピンクと白のボーダー。
ダイソーで売っていたニット端切れである。
伸縮性はいまいちだが、鮮やかで殊の外よかった。

 しかしいま思えば、ボクサーパンツというのはここで挙げたインナーの中でいちばん、近ごろはよくいわれることだが、股間を圧迫し熱をこもらせる形状であり、それを15歳から35歳くらいという、いわば人生中で最も男性機能を活躍させねばならない時期に穿いていたというのは、いま振り返ってみると愚行だったと思う。斯様に、ボクサーパンツから脱却した人間というものは、ボクサーパンツのことを悪しざまにいい募る傾向がある。さんざん世話になったくせに、薄情なものだ。

ポリエステルの水着のような生地。
作ってから、本当に水着を作ればよかったと少し後悔した。
インディゴで竹の絵が描かれていて、かっこいい。

 若いころにはどうしてボクサーパンツを穿きがちなのかといえば、それがブリーフより、トランクスより、垢抜けているように思えるからで、そしてなぜインナーが垢抜けている必要があるかといえば、それは男性機能を活躍させる機会が増えがちな時期であるからにほかならず、ここにディレンマがある。男性機能の完遂のためにはボクサーパンツを穿かないほうがいいのに、男性機能を発揮させる場面のビジュアルのためにはボクサーパンツがベターなのだ。これは非常に悩ましい問題である。

緑色の下着ってあまり売っていない気がする。
作って穿いてみたら、けっこうよかった。
Tシャツだったらうるさすぎるくらいはっきりした色のほうが
ショーツの場合はいいのかもしれないと思う。

 これを解決させる手段こそがビキニショーツである、という地点に僕はあるとき到達した。正確な時期は覚えていない。30代半ばの、暑い時期であることは間違いない。ボクサーパンツ脱却の萌芽は、ユニクロのステテコによってもたらされた。今から5年くらい前、ユニクロのステテコがとても流行った年があった。ユニクロのステテコには、だいぶズボンらしいタイプと、だいぶインナーらしいタイプの2種類があって、これの後者のほうを穿いたところ、股間を圧迫しないということがこれほど快適なものだったのかと驚いたのだった。そこからボクサーパンツへの不信感がみるみる募っていった。

これもダイソーの生地。
白と淡いピンクのボーダー。
これで男が下着を作ったらやべえな、と思いながら作った。
まあだいぶやばい仕上がりになった。

 しかし股間を圧迫しないことに価値を見出したからといって、トランクスに回帰するという道筋はなかった。トランクスはやっぱり時流に沿っておらず、もう若者に訴求するのは諦めているのか販売されている商品のラインナップは押し並べてオジン臭く、穿けばやはり形がダサかった。さらにはこの当時はちょうどスキニータイプのズボンが主流だったため、生地が遊ぶトランクスは、ズボンの腰回りをごわつかせるという弊害もあった。

上のピンクと同じシリーズの生地。
淡いピンクもやべえけど水色もやべえな、と思った。
ちなみにパイル地めいていて、そこがますますやばい感じだ。

 そんな葛藤の末にたどり着いたのが、デザイン自体は体にぴったりでスマートでありながら、布の面積が小さいので圧迫感も少ないという、ビキニショーツであった。ちんこ(陰茎と陰嚢の総称としての)へのホールド感という点で、トランクスが0点、ボクサーパンツが100点であるとするならば、ビキニショーツのそれは65点である。0点なんかじゃ許さない、100点取る人大嫌い、65点の人が好き、と松本ちえこが唄った、まさにそこである。あれはインナーによるちんこへのホールド感の歌だったのか、と喝破した。

これもだいぶ女子っぽい生地。
上のふたつがコスプレらしい噓臭さがあるのに対し、
これはマジな感じがあり、逆にやばい気もする。
銀色のラインが目を引く。

 ちなみに先般から使っている、ビキニショーツという言葉である。ファルマンは僕がこれをいうと「気持ち悪い」といい、たしかに商品検索的にも、「メンズビキニ」や「ビキニブリーフ」のほうが一般的だ。しかしメンズビキニはただの便宜上の区分語だし、ビキニブリーフは、やはりブリーフというとあの白い、フロントに合わせのあるあれを想起せずにいられないので、「ビキニブリーフを愛好し穿いております」と標榜して、受け手にそのような誤解を受けたらたまったものではないので、やはり使いたくない。
 一方でビキニショーツという言葉をなぜファルマンが気持ち悪いというのかといえば、「ショーツ」は、そもそもがパンティーの代わりとして編み出されたという出自もあり、基本的に女子のインナーにしか使われない言葉だからに違いないが、僕が愛好しているこれは、デザインとしてきわめて女子の穿くショーツに近いものであり、単なる逆三角形というフォルムからブリーフの括りに入れられるのは心外というもので、ブリーフ・トランクス・ボクサーパンツに連なる、これは4つ目の大ジャンルであるという志をもって、ショーツという語を用いたいと思っている。なんなら「ビキニ」もなくていいくらいだ。