ビキニショーツ製作漫談 4

 
 メンズショーツ製作とは、すなわち男性器と真摯に向き合うことだ。男性器という存在をゆるがせにせず、どういうスタンスで受け止めるか、きちんとこだわってやる。
 作るにあたり、まずそれまで愛用していた、ネットで買ったビキニショーツを1枚、解体した。それの通りに作るわけではないが、参考にしようと思ったのだ。その結果、フロントの型はこのようになっていた(バックはバックで尻を覆う曲線には紆余曲折があったのだが、あえて話すほどではない)。


 だいたいこんな感じ。これが2枚重なり、右の線で縫い合わせて立体感を出す。このカーブはなかなか生々しい。これは男性器の膨らみそのものである。
 

 縫い合わせたものがこちら。平置きしたものを、やや下から眺めた形。緑色の線が縫い目だ。男性器の入るスペースが、もりっと盛り上がっている。どーだ!感がある。このどーだ!感は、いかようにもカスタム可能だ。なにしろ2枚を縫い合わせればその形に仕上がるわけで、斜め上に隆起しているような形にすれば、そういうスペースを持ったショーツになる。そして実際にそういう商品もある。勃起を表現しているのだということは分かる。しかしそんな猛々しい勃起状態で、それにぴたりと寄り添うショーツを穿いているのって、いったいどんな状況なのかとも思う。あと普段、平常時はそのスペースを埋めるものがないから、その余分な生地はでろんと垂れ下がるのかな、などとも思いを馳せる。要するにジョーク商品か。いいと思う。勃起ジョークは世界を救うから。
 先行商品の作りを見たあとは、オリジナルの型作りだ。独立した2枚を縫い合わせる形は、斯様に自由な形を作り出すことができるが、実を言うと僕は、顔パンツ、すなわちマスクと同様、中央に縫い目のあるデザインというのがどうも好きではないので、それを避けようと思った。とは言えただの逆三角形では男性器(それも大きめな)の入るスペースがない。それでは女性用だ。もっとも素材がニットなので、それでも入らないことはないのだ。ニットも柔軟だし、男性器も柔軟なので、わりとなんとかなる気もする。でもやっぱりそんなわけにはいかない。
 ちなみにショーツの販売ページに、たまにユニセックスを売りにしている商品があり、どんな工夫が施されているのかと気になって紹介文を読んだら、男性器用の膨らみもなければ、かといって女性のためのクロッチもない、両性に対応かと思いきや両性に不対応と言ってもいいような、ただ作るのが容易なだけの気概のない商品だったりする。本当にひどい手抜きの商品だ。ショーツは、男性用には膨らみが、女性用にはクロッチが必要だろう。楽をしようとしてはいけない。
 と言いながら、2枚を縫い合わせて中央に縫い目が来る形は嫌なのだから、面倒だ。唯一の救いは、文句を言うだけではなく、自分で作るところだろう。
 というわけでこんな型を作った。


 「わ」である。独立させず、フロントの上部、すなわち下腹部あたりは生地が繋がっている。それが途中からえぐれ、谷のようになる。ここを縫う。要するにダーツだ。
 縫い合わせると、このようになる。



 男性器のための膨らみを有しつつ、縫い目はほとんど見た目に現れない。穿けば、陰嚢の底部あたりまで縫い目が来るが、正面からは窺えない。そして陰嚢というものは、それ自体が中央で、もともとが大陰唇の割れ目であったものが縫い合わされているものなので、ここに縫い目が来ることは構わない。構わないどころか、気が利いていると思う。
 かくして型紙が完成したので、それからはせっせといろいろな生地でショーツを作った。縫い目、合わせ目のことに思いを配ったので、作業をしながら、いつもそのことをしみじみと考える。男性器の膨らみのためには、ショーツにはどうしたって合わせ目が必要ということで、なるほど男性器というのはどうしたって、合わせ目に、合わせ目の裂けそうな窪みの部分に陰茎をずっぽりと収めたい欲求を持っているものなのだな、などと思った。なかなか特殊な気づきだと我ながら思う。