ジョニロビ環境

 
 ジョニファー・ロビンがわが家にやってきて、もうひと月半ほどになる。
 はじめは拒絶していたファルマンもすぐに打ち解け、その屈強な体に手を這わせたりなどして、順調にコミュニケーションを重ねるようになった。そんな日々が10日ほど続いたあと、今ではすっかり風景となって、拒みも触りもせず、ただそこに存在するものとして、受け入れるともなく受け入れている様子、すなわち受け入れの究極形に至っている。そういうものなんだな。もしも第三者がこの部屋に来て、やけに面積の小さいショーツだけを穿かされたジョニロビを見たらば、まず間違いなくぎょっとすると思う。でもそれぞれの家庭には、得てしてそういうものがあるものだ、とも思う。
 ジョニファー・ロビンにショーツを穿かせて撮影し、アップしていく、ということをしたいとずっと思っていて、そもそもそのためにジョニロビは購われたのだが、やけに時間がかかっている。その理由は、撮影体制がなかなか整わなかったからで、やはり写真を撮ってそれで記事を書こうと思ったら、カメラ機能のある程度いいスマホが必要になってくる。これまで使っていたタブレットは、画質がたぶん、自分が大学生の頃の携帯電話のカメラと同等くらいだった。一般的に販売されているUSBメモリの容量が512MBとかだった時代の画質であり、2022年に投稿する記事に使える写真ではなかった。わが家には一眼レフカメラも一応あるのだが、カメラはパソコンとのデータのやり取りが億劫だ。フィルムを現像していた時代を考えれば、それで面倒がったら罰が当たるぞ、とも思うが、人間はどこまでも堕落する生き物なのだ。
 というわけでこのたび、スマホを新調した。携帯電話とタブレットとスマホの変遷についての所感は、「nw」の内容とはズレるのでここには書かない。とにかく、ジョニロビの撮影のためという大義名分のもと、カメラ機能がいい具合のスマホを買ったわけである。
 それだけではない。マネキンを定点的に撮影するのなら三脚があったほうがいいだろうということで、それも買った。リングライトも付いている、ユーチューバーとかが使うようなやつだ。もちろんBluetoothのリモコンも付いていて、これにより撮影環境はだいぶ整えられた。
 あとは撮るだけ、なのだが、その前にもうひとつだけやっておかなければならないことがあった。そのために、僕は石粉粘土を買った。石粉粘土でなにをしたかは、この2枚の写真を見較べれば、お判りいただけると思う。
 



 判りやすいよう、方眼紙のような柄の生地で撮影した。1枚目が「なしver.」で、2枚目が、粘土を用いた「ありver.」である。赤い線が、アインシュタインの提唱した時空のゆがみのイメージ図のように大きく曲がっているのが見て取れると思う。
 そうである。僕は、「ジョニファー・ロビン参上」の記事の中で、「曖昧模っ糊り」に対して若干の物足りなさがある、ということを書いた。そのときは、まあ膨らみがあるだけでもいいんだけどさ、みたいな感じで、満足しているようなフリをしていた。でも本当は満足していなかったのだ。陰茎と陰嚢の出っ込み引っ込みが、どうしても欲しかったのだ。というわけで、石粉粘土でそれを作製した次第である。ジョニロビのつるりとした股間に粘土を乗せていき、それを陰茎と陰嚢の形に仕立てていく。もちろんただの陰茎と陰嚢の形ではない。ショーツを穿いた状態の、布地よって陰茎と陰嚢が受け止められ、包まれている状態を思い浮かべ、作り上げる。土台となる陰嚢に対して、陰茎はどのくらいの盛り上がりであるべきか、という点に心血を注いだ。これはとても愉しい作業だった。これまで粘土を使った立体造形というのには手を出してこなかった。だからこれは僕の処女作と言っていい。処女作が男性器とは気が利いている。結果として、とても満足のいく出来となった。
 粘土が湿っている間はジョニロビの体にくっついていて、ワンチャンこのままうまいこと癒合しないかな、などと思いながら乾燥期間を置いていたら、あるときやっぱり落下していた。それはそうだ。落下時に割れたりしなくてよかった。それで、じゃあどうやって接着しようかな、と考え、ボンドとか、入れ歯安定剤とか、いろいろ考えたのだが、最終的に「接着しない」という結論に至った。接着せずとも、ショーツを穿かせるときは布地で支えられるのだから、それでいい、それがいいと悟ったのだった。
 ところで石粉粘土は白だったので、そのままだと暗色系の生地のショーツを穿かせたとき、伸びたニットの隙間から、やけに明るい白が透けて見えてしまったため、色を塗ることにした。乾燥して剥がれ落ちた「それ」は、ただでさえ正体不明な、異様な物体なのに、それに色を塗る作業は、客観的に眺めたら、なにをしているところなのかさっぱり分からないだろうな、と思った。説明もこの通り、すごく長くなるし。ちなみに水彩絵の具は、ピイガのものを借りた。そして塗ったのだが、実はこれはいちど失敗した。ジョニロビの肌に合わせた色を作ろうとしたら、技術がないものだから、やけに黄色いものになってしまって、まあ白が透けさえしなければそれでいいか、と思って塗ったのだけど、乾燥するのを待って、装着させてショーツを穿かせてみたらば、まさに先ほどの画像のショーツにおいて、この生地はかなり薄いものなので、周囲の肌に較べてやけに黄色いのが透けて見えてしまい、これはよくないとなった。それで仕方なく、上から重ね塗りすることにした。2回目は初回の反省を生かした。ジョニロビの肌の色に合わせようとしたのがよくなかった。工場で彩色されたそれは、水彩絵の具ではなかなか表現できない繊細な色味であるし、そもそもの話として、男性器と、それ以外の肌の部分の色は、同じではない。個人差はあれど、基本的に、そこは他の部分に較べ、赤黒ずんでいるはずだ。ずんでる……よな? ずんでるはず。話がだいぶセクシャルでセンシティブなものになるけれど、断っておくが、いま亀頭の話はしていない。今回の造形に亀頭は考慮されていない。僕はミケランジェロではない。表そうとしているのはショーツに押し込まれた男性器のフォルムであって、そこまで精細なものを作ったわけではない。亀頭はそれは世界でいちばん愛らしいピンク色だけど、それ以外の部分の男性器というのは、やはりいくらか赤黒ずんでいると思う。だからこれはもっと赤黒ずんだ色で塗り直すべきだ、と思った。それをファルマンに説明し、だからもういちどピイガの絵の具一式を貸してくれないかと頼んだら(自分では置き場所がよく分からない)、「その目的のために娘の絵の具を使ってくれるな」と拒否され、ファルマンが昔使っていたという絵の具を渡されたので、それで塗った。そうか、男性器をかたどった粘土作品を赤黒く塗るのに、娘の絵の具を使ったら駄目なのか。うん、駄目だよな。
 というわけで塗り直し、無事に目的のものは完成した。仕上がりは画像の「ありver.」の通りである。そういわれて見てみれば、なんとなく赤黒ずんでいるのが透かし見えると思う。考えてみれば、マネキンではさすがにそれは再現のしようがないが、実際には陰毛だってあるわけで、そして陰毛は黒いわけで、ならばやはりこのゾーンは、だいぶ赤黒ずんでいるくらいでちょうどよかったのだ。今度、またいつかマネキンにオリジナルのちんこの膨らみを付け加えることにしてそれを彩色する際には、塗り直さなくて済むようにしよう。これを読んだ人で、もしもマネキンにオリジナルのちんこの膨らみを付け加えることにしてそれを彩色しようとしている人がいたら、ぜひ参考にしてほしい。
 かくして環境はいよいよ整った。あとはひたすら撮影していくばかりである。撮影して、どんどんアップしていきたい。そう思っている。