母注文・シャツワンピース

 
 GWに母に製作を依頼されたシャツワンピースを、このたびようやく完成させた。「秋から着るものだから急がない」という言葉に甘え、実にゆっくりと作ったことだ。
 なにぶん生地選びからしなければならなかった。「リネンで」という指定だったのだが、リネンってこれまで扱ってこなかったので、買うのがけっこう難しかった。単価がわりと高いのも、買うまでに時間がかかった原因だ。僕の買うような、プリント生地だったり、ニット生地だったりに較べ、2段階くらい高い。しかもシャツワンピースなので、生地は3mほど必要となり、そうなると本当にずいぶんな値段になる。失敗できない。
 まず選んだのは、からし色の生地だった。自分がニット生地を買おうとしていた生地屋にあったもので、麻にしてはわりとリーズナブルな値段だった。自分のニット生地と併せて注文し、届けてもらう。手元にやってきたものを確認したら、思っていたような麻ではなかった。たぶん「リネンで」という指定をしてくる人の思うリネンって、あの密度の低い、風通しの良い、ふわっとしたもののことだろうと思われるが、やってきた生地はかなり目が詰まっていた。ちょっとこれは違うだろうな、と「わりとリーズナブルな値段」に引っ掛かり、あれほど警戒していたくせに、まんまと失敗した。本番用としては失敗したが、試作に使うにはちょうどいいじゃないかと思い直し、作った。



 モデルはもちろんファルマンである。送らないならくれ、ということでこれはファルマン用ということになった。あの感じのリネンではないということを除けば、別に悪い生地ではないのだ。色も僕の好きなマスタード色なので、妻が着てくれるのは嬉しい。
 この次に、よく利用している店の新着商品として、ちょうど麻の生地が出る。しかも麻にしては珍しく柄があり、その柄の感じがとてもよかったので、運命的なものを感じて購入した。そうして作ったのがこちらである。



 これはすごい。生地だけで見たとき、とても素敵だと心を奪われ、母も好きそうな感じだと思ったのだが、いざ裁断し、身頃を縫い合わせたあたりで、「……おや?」となった。柄はめっちゃいいけど、シャツワンピ―スもの面積ともなると、あまりにも派手になりすぎるのではないか? と疑念を抱き始めた。そして画像のものが完成した。疑念どおりの派手さである。派手ついでに興が乗って、フロントボタンはレモン色とピンクを交互に、袖ボタンは赤なんかにして、突き抜けてしまった。これはなかなか着こなしが難しそうだ。67歳の母は果たして着こなせるだろうか。案外やれそうな気もするが、「シャツワンピースを作ってくれ」という依頼から、3ヶ月待たせて、ようやく送ってきたのがこの着る場面を選ぶ奇矯な1枚というわけにはいかないだろう、とも思った。
 そんなわけで、3枚目にしてとうとう観念し、順当なリネン生地を購入した。はじめからそれを買っておけばよかったんじゃないのか。そういう遠回りが、人生中でやけに多いような気がする。そんなことを思いながら、もはや手慣れた手順で作った。



 リネン感も、色味も、まったくもって無難である。こういうことだったんだよな、と完成品を見て思った。
 完成したところで、母に2枚目と3枚目を見せ、2枚目に関しては、着られなそうなら自分で着るから遠慮なく言ってくれ、と伺いを立てた結果、2枚ともくれ、とのことだったので送った。着用姿の写真をリクエストしたところ、送ってきてくれ、見てみたら2枚目もそれなりに成立していた。考えてみたら、おばさんやばあさんというものは、よく見たら信じられないくらい派手な柄の服を、なんの気負いもなく着ていたりするものだ。そんな感じで普通に着てもらえそうで、よかったよかった。僕としても2枚分の代金を受け取ることができ、万々歳であった。