新しいフェーズショーツ


 新しいフェーズです。
 新しいフェーズという言い回しは、今やギャグのようになってしまっているけれど、もうこれに関しては新しいフェーズという表現以外思いつかない。
 なにか、と言えばもちろんショーツだ。
 こんなフェーズに入った。
 

 これまでもサイド部分が紐のように細かったが、このたびとうとう正式な紐となった。ゴム紐。ふたつ折りになっていて、パイピングもできる。現代はこういうものがネットで買えるのが本当に素晴らしいと思う。


 こういうタイプのショーツは前から目にしていたが、縫製工場でしか材料が手に入らないものかと思っていた。やろうと思えば手作りできるんですよ。情熱さえあれば。本当に俺のショーツ作りの情熱は、我ながら並々ならないな、と思う。
 

 ファルマンに見せたら一言、「ふんどしじゃねえか」というコメントが返ってきたのだけど、そうじゃない。似て非なるものだ。生物でもある。たまたま進化の果ての姿がとても似てしまったけど、それは同じ環境に適応するための形状に共通点があるだけで、生命の成り立ちとしてはまるで別のもの、みたいなパターン。このショーツとふんどしは、言わばそんな関係性だと思う。ふんどしだなんて言われたら心外だ。
 あとこの手のショーツの商品紹介欄には、「腿が最大限まで出ているため、脚が長く見える効果が!」という惹句がよくあるので、このショーツの魅力を分かってもらおうと、そのことをファルマンに主張したら、「これを穿いている姿の脚が長く見えて、どんな得があるの?」と疑問を投げかけられ、言葉に詰まった。そう言えば、ショーツ一丁の姿で脚が長く見えるメリットってなんだろう。自己満足だろうか。間違いなくそうだな。
 あとこの形式のショーツを作り始めて(またいつもの調子で、既に5枚ほど作った)、あることに思い至った。これは、これまで思い至らなかったことがむしろおかしいような事案なのだが、僕はショーツのフロント部分に縫い目があるのが嫌で、それを必要としない型でショーツを作り続けてきたわけだが、だとすればフロントとバックは、分けて裁つ必要はまるでないのだった。これまではずっと、そのふたつを分けて裁ち、ロックを掛けて、縫い合わせ、アイロンで割っていた。なぜそのことに疑問を抱かなかったかと言えば、これまでのショーツでは、サイドはどうしたって縫い合わせる必要があったからだろうと思う。さらに言えば、サイドで柄を合わせようと思ったとき(柄合わせもなにも1,5センチくらいしかないのだが)、1枚で裁ってしまってはままならないので、そこをメインに考え、蟻の戸渡り部分の縫いのことにはまるで頭が行っていなかったのだ。
 それがこのショーツの場合、サイドで布と布の縫い合わせがないために、「じゃあ縫い合わせる場所は蟻の戸渡りの部分だけなんだな―、楽だなー、…………あれ?」となり、この部分、はじめから繋げて裁てばいんじゃね? とようやく気付いた。
 

 なのでこのショーツ、作るのが本当に楽である。ひょうたんのような形に布を1枚裁って、あとは周囲にゴム紐を縫い付けるだけなのだ。ミシンも、実質カバーステッチミシンしか使わない(唯一、ウエスト部分のゴム紐を輪っかにするために2センチくらい直線ミシンを使う)。逆にカバーステッチミシンがないと、このスタイルのショーツは作りづらいだろうと思う。カバーステッチミシン、買ってよかった。
 それにしても1枚の布とゴム紐だけでショーツができてしまう、ということに驚く。その簡素さに。直線ミシンやロックミシンを使うと、縫製だな、という感じがあるけれど、なんかもうこれはそうじゃない。だから「新しいフェーズ」なのだ。
 そして、縫い合わせなどしなくても、こんな1枚の布がショーツになるのなら、そもそもショーツってなんだろう、などと考え始めてしまう。ネットショップには、陰茎に被せるだけの、ソックスのようなものがショーツとして売られていたりする。1枚の布がショーツになるのなら、あれだってショーツじゃないと否定することはできない。ちんこに添わせれば、神羅万象あらゆるものはショーツになるのかもしれない。僕のショーツ道は、もうそんな段階にまで来つつある。