それをこのたび製作に取り掛かっているのび助ショーツは、これでもかと前方に突き出す。ちんこというのは、勃起をすると前方に突き出すけれど、平常時はそうではない。放っておけば、すなわちなにも身に着けていない状態では、垂れ下がる。それが自然なのである。それを、半ば無理やりに前方に突き出すようにする。目的はなんなのかと問われれば、やっぱり、息子をのびのびさせてやりたい親心だ、と答えるほかない。
そんな変態的な試みをしているのは世界で僕だけだ、ということはもちろんない。こういう男性下着のジャンルは存在する。活況なのかどうなのかは知らない。販売ページおよび購入者レビューを見るにつけ、作り手も買い手も、熱の高い業界だな、ということは感じる。
レビューで、着用姿を写真に撮ってアップしている輩がいる。なかなかすごい画像である。しかしその気持ちは分からないでもない。こんなおかしなテンションになる下着を、コソコソ穿いてどうする、という気はする。そしてその欲求の発露に、レビュー欄というのはちょうどいいのだろうと思う。見せたい気持ちがある一方で、現実や、その延長にあるSNSでは諸問題が発生してしまう。
そう、諸問題が発生するのである。それが前回のファルマンの「バカ! やめろ!」である。ちんこが体の前方に突き出すショーツの着用姿は、傍から見ればただの変態なのである。なぜならちんこが前方に突き出すのは、前述の通り、勃起をしたときだからだ。なにをお前は、勃起するような状況ではないのに勃起しているのだ、異常者か、となる。勃起はしていない、していないけど前方に突き出す、そういうデザインのショーツなのだ、という説明は相手の耳に届かない。届いたところで、それはあまり変態性の払拭にはなっていない。それほどに、常時ちんこが前方に突き出すショーツは異様なのである。
僕には娘がふたりいるし、プールやサウナにもよく行く。ちんこが前方に突き出す系ショーツを穿くには、なかなか過酷な境遇だと言える。これまでの通常のショーツにしたところで、受け入れられていたのかどうかは定かではない。公共の場(といってももちろん更衣室である)で僕以外にああいうものを穿いている人を見たことはない。とはいえちんこの形を強調しているわけではないので、それは看過されやすいと思う。しかしのび助ショーツは無理だ。弁明のしようがない。あまりにもちんこすぎる。
ファルマンによる「バカ! やめろ!」によって、フロント拡張の試作はストップした。あれがなければ型紙はどこまで伸び伸びたか考えるとゾッとする。ちんこのためのスペースを作る型紙作りは麻薬と一緒。だんだん歯止めが利かなくなるのである。幸い僕はまだ人間側にいる間に妻に止めてもらえた。そこでいちど頭を冷やし、デザインを考え直そうと思った。ちんこをのびのびさせてやりたい一心でああいうことをしてしまったが、結果として、(僕が巨根だというのも一因かもしれないが)リアルクローズから遠ざかってしまった。せっかく作っても、それで娘の前に出られなかったり、プールなどで堂々と穿けないのでは不便きわまりない。
ちんこがあからさますぎて問題があるのだから、それを抑えるほかない。しかしこれまでの、フロントが1枚布のショーツよりは、せっかく2枚を縫い合わせる構造なのだから、ある程度は膨らむようにしたい。あからさまなアピールではなく、自然に「おっ」となる感じ。そのギリギリのところを探ろうと思った。探ろうと思ったのだが、これはぜんぜん意欲が高まらなかった。そもそもが、ちんこをのびのびさせてやりたいという動機で始まった行為なので、この調整作業に気合が入るはずがないのだった。
というわけで、しばし思案した後、「バカ! やめろ!」という叱責に対し、
「やめない!」
という結論を導き出した。
「俺ぁ、やめねえよ。そうさ、俺ぁ、バカさ。ちんこバカなのさ。だからやめらんねえんだよ。ちんこを、どうしてものびのびさせてやりてえんだよ……」
これはファルマンに直接言ったわけではないが、言ったらたぶん、「あ、そう……うん、わかった。絶対に娘に見せないでね」というような反応だろうと思う。
かくしてのび助ショーツは、合計8回の試作を重ね、まあこんなものだろう、という地点に無事着地した。
しかし言葉ばかりではどうしたってイメージが掴みづらいだろう。穿くとどういう感じになるものか、画像で示す必要がある。必要があるのだが、同時に問題もあって、ショーツ専用マネキンであるジョニファー・ロビンには、前方に突き出すちんこがないのである。これだとのび助ショーツの要点がまるで表現できない。
次回ではこの問題とその解決法について書いてゆく。この漫談は永遠に続く。