ビキニショーツ製作漫談 12

 
 部屋や机周りを雑然とさせないコツは、全ての物に定位置を与えることだという。だが僕には、発泡スチロールで作ったちんこ模型に、今のところ定位置を与えられていない。それで仕方なく、パソコンの横に、はぎれなどに紛れさせて適当に置いていたのだが、真っ白で、明らかになんかしらの造形物であるそれは目を引くようで、ピイガに部屋に入ってくるなり、「なにそれ?」と訊ねられてしまった。これには大いに困った。なにかと言えば、ちんこの模型である。しかしもちろんそんなことは伝えられない。それを言ってしまえば、小ぶりのものと、それよりも多少長いもの、2種類ある理由も説明しなければいけない。そういうわけにはいかない。困った末に、2秒くらいの沈黙のあとに僕が捻り出した返答がこれだった。
「……なんでもないものだよ!」
 ここはもう理屈ではなく力技である。ピイガも、父があまりにも力強くそう答えたものだから、まあそういうもんか、とでも思ったのか、それ以上に言及してくることはなかった。ギリギリセーフだった。果たしてそうだろうか。セーフかアウトで言うのなら、このやりとり以前に、一連の行為、全てがアウトのような気がしないでもない。ピイガを追い払ったあと、自分の口から出た「なんでもないもの」という言い回しが妙にツボに嵌まった。こんな明らかなちんこ模型をつかまえて、なんでもないものと言い張るという、状況のバカらしさに腰が砕けそうだと思った。
 そんな、なんでもないものを付け、きちんとそれのために作り上げたスペースを埋めた状態の、ジョニファー・ロビンののび助ショーツ着用姿を、満を持してアップしてゆく。
 それがこちらである。


 平常時を表現した模型を付けた状態では、生地が余っている。それでいいのか。これでいいのだ。それでも生地の余りというのは、下方にあるのではなく前方にあるため、ちんこは下には向かわず、前に向く。尻のほうから股の間に腕を差し込まれ、金玉肉袋を優しく持ち上げられている感じと言えば伝わるだろうか。それが穿いている間ずっと続く。


 のびのびしてほしいという願いを発露に作られたショーツなのに、誰かからちんこを世話されている感じになるのは正しいのか、それは一種の拘束ではないのか、という話だが、もちろんいいのだ。ちんこは放っておけば下に垂れるわけだが、それは本人がのびのびしようとしてそうなるのではない。重力で仕方なくそうなるに過ぎない。ちんこは重力に打ち勝つ場面では、前方に向かう。つまり根源的には、前方を目指しているのだ。だから重力からの干渉を無効化し、前方に向かわせてやることは、のびのびの手助けに他ならない。
 ちなみに余談だが、ちんこが持ち上がっている状態とは、身体的に立ち小便をするときの感覚を想起させるようで、このショーツを穿いてすぐの、慣れない時期においては、なんとなく恒常的に尿意が催されているような気持ちになった。今はもう身体も状況を把握したらしく、そんな感覚はなくなった。たぶんこれは、前方にちんこが突き出す系ショーツ初心者あるあるの定番ネタなんだろうと思う。ビギナーがその悩みを口にするたびに、古参たちは少し意地の悪い、馬鹿にしたような笑みを浮かべる。嫌な界隈だな。


 ちんこが、柔らかい平常時でありながら、垂れ下がるのではなく、言わば中空に浮遊しているような状態になると、他にどんな現象が起こるかと言うと、なんて言うんだろう、説明しづらいのだけど、個体化するというか、太ももにもたれかからないので本体とは分離していて、それでいて勃起しているときのように頭が性的興奮で支配されているわけでもないので、純粋にちんこを、正気を保ったままちんことして愛でられる。そもそも女性に理解してもらえるはずもないし、男でも未経験ではなかなか想像力が及ばないのと思うので、限りなく誰にも伝わっていない気がするのだけど、でもそんな新鮮な感覚があった。
 根元で繋がっているだけで、それ以外は浮かんでいるので、はたくと撫でるの中間くらいの感じで弄んでやると、ちんこはぷるんと揺れ、跳ねる。それはまるで愛玩動物のようで、しばらく遊んだあと、この様子はなにかに似ていると考え、マギー審司のラッキーのやつだ、と思い至った。なんか、自分とちんこの関係性が、本当にあのような感じになる。マギー審司のあのネタを、ちんこでパロディした人はいるだろうか。見たことはないが、きっといるような気がする。 
 ちんこを、息子を、のびのびさせてやるという理念からすれば、本体から分離し(たような感覚を発生させ)て躍動させる結果となったことは、大成功と言えるだろう。そもそもは、「窮屈な思いをさせない」というのがこちらの願いだった。結果としてそれ以上の効果が得られた。息子が、「もういちど生まれた」と言っても大袈裟ではないと思う。


 模型を差し替え、大きいほうにすると、このようになる。自由気ままな前方への突き出しを、のび助ショーツは鷹揚に受け止める。広い父の背中。包容力。もちろん生地の特性に拠る部分も大きい。この生地は横にもよく伸びる上、縦にもまあまあ伸びるので、ことさらに甘やかしてくれる。いつものことで、もう既にこの型で10枚くらい作ったのだが、ここまで伸縮性のない生地だと、腰回りの、ちんこの上の部分が、肉棒の突き上げによって引っ張られてしまい、下腹部と生地の間に空間が生まれ、上から見たらほとんどちんこがさらけ出されてしまっているではないか、みたいな感じになることもある。でもそれもまた、ひとつの家庭の方針だと思う。残酷な話だが、親の太さによって、子どもの置かれた環境が変わるのは紛れもない事実だ。でも与えられた場所で、子どもは精いっぱいきれいな花を咲かせればいいのだと思う。


 この画像、大丈夫でしょうか。さすがに心配になってきた。
 勃起したちんこって、ブリーフにしろボクサーにしろトランクスにしろ、下着を穿いたまま勃起をすることはできないし、コンドームはあるけれど、あれは半透明な上、金玉肉袋までは覆わないから、考えてみたらこれまでそれは、基本的にネイキッドの状態でしか見たことがなかった。だからこのように、勃起したちんこが布を纏っている、という情景はとても新鮮だ。それはまるで、狼に育てられた少女を社交界デビューさせるような、少しそれに近い感覚ではないかと思う。服を着て、見違えるようになったこの娘に、これからいろんな柄のドレスを着せてやりたい、という熱情を抱きもする。しかしこれまで自由に野山を駆け回っていた少女を人間社会の中に強引に連れてきておいて、それのどこがのびのびか。のび太の幻の妹、野比のび花。もちろんそんなキャラクターはいない。完全に筆が滑った。
 製作はまだまだ続く。漫談も続く。