2025年のちんこ模型


 ピイガの最近のブームと言ったらもっぱらスライムで、YouTubeの動画を参考に、せんたく糊やホウ砂といった材料を買い集め、日々せっせと色とりどりのスライムを錬成しては、それを絶え間なく捏ねくり回しているのだった。
 僕はスライムや練り消しといったグニョグニョ系は昔からあまり得意ではないので、娘のそんな姿を眺め、正直ちょっと引いていた。ピイガの部屋に入ると、バブルスライムのような物体が床にへばりついていたりするので、本当に嫌だと思っていた。どういう感情の発露なのか、ピイガはスライムをこねながら、たびたび「パパも触る?」と訊ねてくるのだが、これまでの僕はそのたびに「いや大丈夫」と断り続けてきたのだった。
 しかしここへ来て、天啓のように、「スライム!」という喝破が訪れた。ちんこの模型が流動しない問題の解決法として、スライムほど適当な素材はないのではないか、と。
 そこで、いつも通りテーブルでスライムを捏ねくり回していたピイガに、「ちょっとスライムを触らせてくれ」とお願いする。「えっ」とピイガは驚いていた。これまでさんざんスライムを触るよう働きかけてきたのを、どこまでも嫌悪感むき出しに無碍に断り続けてきた父が、なぜかいきなり、それも向こうから触らせろと言ってきたのである。ピイガは不思議がりながらも、「いいよ」と言って、そのとき捏ねていた自作の真っ赤な(血だまりのような)スライムを差し出してくれた。そこでおそるおそる、人差し指で少しつついてみたところ、軟体動物めいた、やわらかさと湿り気の、なんとも言えない感触があった。やっぱり気持ち悪かった。しかし同時に、やはりこれはちんこの模型として最適かもしれないとも感じた。ちんこって、要するに軟体動物なのだから。
 とは言えこれだと少し模型としてはやわらかすぎる。ピイガのスライム作りをサポートしてきたファルマンにこちらの意図を白状し、意見を求めたところ、「スライムの硬さはホウ砂の量によって調整できる」とのことで、「じゃあピイガに理想の硬さのスライムを発注しようかな」とつぶやいたら、「娘に? 娘にその使い道のためのスライムを作れって言うの?」と糾弾された。そこはビジネスライクにやればいいんじゃない? とも思ったのだけど、許可が下りなかった。
 しかしやはりスライムはちんこ模型において大きな可能性を持っていると確信したので、それならば既製のものを買うしかない、となった。しかし買うにあたり、自分ではあまりにも情報がないため、どれを選んでいいのか分からない。このときだけ、どうしてもピイガの力を借りるほかなかった。「なるべく硬めのスライムがいいんだよ」と希望だけを伝え、もちろん具体的な用途については明かさず、ダイソーで選んでもらった。ピイガはなにしろ日夜スライム系のYouTubeをむさぼり観ているので、知識が豊富なのである。
 というわけで見立ててもらって買ったのが、なぜかケアベアのシールが貼られたガムボトルに入れられた「ぐにゅぐにゅジェル」という商品で、何色か種類があるようだったが、黄色っぽい色味がいいだろうということで、ライオンのキャラクターのこちらを選んだ。


 いま確認したところ、ブレイブハートライオンというらしい。『何事にも恐れない強い勇気を持ち、その勇気をみんなにも分けてくれる』という説明があった。なるほどちんこの模型としてふさわしい資質だと思う。ちんこって、「分け与えたさ」だから。
 蓋を開けると、みかんゼリーのようなスライムが目一杯に詰まっていた。なかなかの量だ。しかしこれを丸めて、そのままジョニファーとショーツおよびスイムウェアの間に差し込むわけにはいかない。ジョニファー側は大丈夫だが、生地側に直接スライムを付けるわけにはいかない。でもそのことはあらかじめ計算していて、ダイソーで一緒にラップも買っていた。極力スライムの邪魔をしてほしくないので、できるだけ張りのない、やっすい感じのラップを望んでいた。ダイソーで売っていたのは110円で55mもある商品で、期待通りびっくりするくらいクタクタしていて、少し引っ張っただけでグニュリと伸びた。まさに求めていた通りのものだ、と感動した。
 というわけで早速試す。最初は、丸ごとをラップで包んでやってみたが、これはどうやらこうしたほうがよさそうだな、と途中で気付き、3つに分けた。


 そもそも軟体動物めいているスライムだが、分けたり、成型したりすることで、ラップによる光の反射も手伝い、生々しさが増している。ブレイブハートライオンの、これはどの部分だろう。胆嚢とかだろうか。
 この3つがそれぞれ何になると思いますか。え、分からない? またまた。カマトトぶっちゃって。既にもう頬がほんのりと紅くなってるっつーの!
 当然こういうことです。


 ケアベアのキャラクターの中には、象をモチーフにした、ロスタハートエレファントというのもいるらしい。店にはそのボトルもあった。ピンク色の象なので、そちらとも迷ったのだが、赤に近いような濃いピンク色だったら困るなと思い、安全策で黄色のブレイブハートライオンを選んだのだった。でもこうしてみると、ブレイブハートライオンにだって、脚の間にはロスタハートエレファントがいるのだ、ということに気付かされる。キャラクター紹介文には、『絶対にあきらめない強い気持ちを持ち、うまくいかないときは持ちこたえるよう手助けをしてくれる』とある。たしかにそうだな、とも思うし、案外ロスタハートエレファントは、こっちが持ちこたえるつもりだった場面で持ちこたえられなかったりすることがしばしばあるよな、それともそれは俺のロスタハートエレファントだけかな、とも思う。
 あれほど嫌悪していたスライムを急に買った父に、ピイガは「なにに使うの?」と興味津々の様子である。もちろん明かしていない。家族に隠し事をしなければならない、つらい身の上である。
 次回でいよいよ、スライムによるちんこ模型を備えた実際の様子をお披露目する予定である。

つづく