水着が売れないのだった。
ただ、売れないよりは売れたほうが、売上金で新しい生地も買いやすいし、もちろんいいのだけど、とは言え僕の場合、そもそも売るために水着を作っているのではなく、自分のための水着を作る、そのために買った生地の余り布で、「もしよろしければ」という気持ちで出品をしているわけで、世間が買おうとしないのならば、それはそれでいいのだ。この世で俺ばっかりがこんなに愉しい水着ライフを送っているということに、他の下賤な人々に対してちょっと申し訳ないなという、ある種の罪悪感があり、出品にはその罪滅ぼしの意思も含まれているわけだが、だとすればその行ないは、出品をした時点、すなわち下々の者どもに機会を恵んでやったという事実が生まれた時点で、目的は果たされているわけで、それ以上こちらが、愚民のために特別な働きかけをしてやる義理などないのだ。気づかず、買わないのなら、それでいい。それだからあなたたちは、そうなのだ。今後もずっとそうあればいい。
というわけで、この期間中に作った新しい水着を紹介していく。前回のサマーコレクションからまただいぶ間が空いてしまった、と思っていたのだが、その記事の投稿が6月15日なので、実は1ヶ月しか経っていない。フルタイムで働いている一般人は、あまり1ヶ月間で、自分用と出品用の水着を複数点製作しない気がする。もう時空が歪んでいるのかもしれない。
1枚目はこちら。
触れると分かる、立体等高線。
Nobitattle.
今回紹介していくものには統一性があって、実はすべてボーダー柄なのである。こちらはその中でも最もシンプルな、緑と白という2色の8mmピッチのボーダー。これまでいろんな柄の生地で水着を作ってきたけれど、その手があったか! という清新さがある。
ボーダー柄の場合、サイドの切り替えは新パターン以降なくなったので問題ないが、フロントパーツとの縫い合わせはどうしたってあり、そこの柄合わせに非常に神経を使うのだった。そして見ての通り、すばらしい合わせっぷりである。線はほぼズレず、1本の直線のようになっている。しかし直線のようでありながら、なにぶんフロント部分は立体構造なので、真横から見るとこのようなことになる。
それはまるで等高線のように、そもそもが平面である布が、立体感を表す。ここにボーダー柄で作るフロントもっこり水着の情趣があるのではないかと思う。
続いてこちら。
虹みたいに明るい。
その奥に、こっそり熱帯低気圧。
Nobitattle.
生地をネットで見かけた瞬間、俺はこの生地で作ったビキニを着た女の子が好きだな、ということを思った。スポーティーな、爽やか系グラビアアイドルが着て、ホースで水しぶきとか上げてはしゃいでそうだと思う。じゃあ僕もその横で、これを穿いて立つよ。水しぶきの向こう側には虹が掛かり、それを見て喜ぶ君を見て、俺の等圧線は歪み、こっそり熱帯低気圧だよ。コピーの意味わかんなさがすごくいい。
続いてこちら。
このふくらみ、布の一般相対性理論。Nobitattle.
続いてこちら。
動きたい! 跳ねたい!
青春って、忙しい!
Nobitattle.
紺、白、水色というトリコロールの太ボーダー柄。ボーダーに対して女の子的なイメージというのを僕はとにかく持っていて、かつてショーツを量産していた時期も、このボーダー柄ショーツを穿いていそうな女の子はこんなイメージだな、というのを想像しながら作り、穿いていたのだった。それで言うとこの生地は、バドミントン部所属、スマッシュのたびにポニーテールが揺れる女の子のイメージ。
続いてこちら。
甘えたい! 隠したい!
青春って、バレそう!
Nobitattle.
1個前との色違いで、これは臙脂、薄桃、白という配色。先ほどのバドミントン部少女の双子で、こちらは美術部所属。放課後の美術室で塑像のための粘土を捏ねながら、憧れの先輩に思いを馳せ、無意識のうちに先輩の長く骨張った指先のフォルムをかたどってしまう。ふと気づき、慌てて粘土をぐしゃぐしゃにする少女の、頬の赤らみ。
最後にこちら。
ボーダーラインって、
守るためじゃなくて、
ちょっとだけ越えるためにあるんだよ?
Nobitattle.
女の子のショーツみたいなイメージをもたらすボーダー柄の水着を作ろう、ということを思い立ち、生地を選んでいたとき、ラインナップの中でいちばん女の子のショーツっぽいと思って選んだのがこのデザインだった。あくまで僕のイメージの中の女の子のショーツだけども。作った結果どうだったかと言うと、まあ欲求は満たされた。イラストとかの柄で作るのも愉しいが、ボーダーにこだわって製作したこの1ヶ月も、だいぶ充実していた。ただし柄合わせがとにかく面倒なので、やるのにはちょっと気合が要るのだった。今後も気が向いたら取り組んでいこうと思う。