ボックス型スイムウェア製作漫談 2

 
 そこで次に見本にすることにしたのが、水着ではなく、ボクサータイプのインナーである。
 ボクサーパンツというものは、トランクスに対するアンチテーゼから出来ているという面があるため、とかく体へのフィット感が身上となる。そのため股間部だって、基本的に膨らみが作られることとなる。なんのための膨らみか。言わずもがな、それはもちろん、肉棒と金玉肉袋のための膨らみだ。固定の置き場所がなく、ブランブランとそれらが安定しないトランクスに対して、ボクサーはしっかりホールドしてくれる。ちんこにおけるその新鮮な感動があったから、ボクサーというのは今日のような隆盛を獲得したのだったろう。
 スイムウェアだってその流れを踏襲するべきで、レジャーなどで穿かれる、ハーフパンツ型のスイムウェアが、インナーにおけるトランクス型だとすれば(もっとも大抵のあの形状のスイムウェアには、ブリーフ状のインナーが内蔵されているけれども)、それに対するボックス型のスイムウェアは、男性の股間の膨らみのことをきちんと慮るのが道理だ。
 断っておくが、なにも僕は公共の場であるプールという空間で、性器のボリュームを強調したいのではない。そうではなく、どうしたって男性器を含めた肉体をかたどろうとすると、そこには一定のスペースを作り出す必要性が出てくる、ということなのだ。だって腹と腿が基本的に平らである中、ちんこというものはそれだけが嘘みたいに飛び出ているだろう。少々の深さのある膣内の、なるだけ奥まで精子が届くようにするにはどうしたらいいか、という問いの答えとして、完全に後付けの設計だな、という感じで付いている。その存在を否定することは誰にもできない。それを否定することは、自分の、そして人類の誕生を否定することになるからだ。
 それではなぜ、最初に習おうと試みた大手スポーツ用品メーカーのボックス型スイムウェアは、そういう作りになっていないのか。ちゃんと訊ねて回答を得たわけではないけれど、これはおそらく水の抵抗を鑑みてのことだと思われる。なにぶんスポーツ用品メーカーなので、性器の扱いに関する道理や理念などより、運動における機能性のほうがよほど大事だ。これはこれで理屈に合っている。
 男性器というものは、前述の通り肉体という流れの中で、そこだけがとても突き出ているものなので、そのままだと強い抵抗が生じてしまう。鳥が空を飛べる理由は、外性器をなくしてしまったからだそうだ。もしかするとそれは数ある理由のうちの、そこまで貢献度の高くない理由のひとつなのかもしれないが、とりあえず僕はそういうことで理解している。泳ぐ動きは飛ぶ動きと似ている。少なくとも歩く動きよりは近い。ペンギンを例にすれば理解しやすいと思う。だからスムーズに泳ぐためには、ちんこは「ないこと」にしたほうがいい。
 その結果が、スポーツ用品メーカーによる、左右の直角三角形を逆向きの二等辺三角形で繋ぐ、前回イラストで示したあの形だ。あの形は、腿の運動には対応しているけれど、ちんこの立体感は考慮していない。考慮していないというか、抹殺している。泳ぐにはそのほうが都合がいいからだ。
 しかし記録を追い求める選手ならばいざ知らず、一般人スイマーにとって、そこまでの抵抗の排除は果たして必要であろうか。そのメリットよりも、趣味の愉しい水泳中ずっとちんこがへしゃげている、そもそも泳いでいると水中で冷えるのでちんこは縮まりがちなのに、それをさらに無理やり押し潰すという、ちんこに対するあまりに無体な扱い、それによって生じるフィジカル・メンタル両面からのデメリットのほうが、よほど大きいと言えるのではないでしょうか(こぶしで強く机を叩く音が議会中に響きわたる)。
 だから僕は、陸で穿く、前閉じタイプの、既製のスイムウェアにおいて逆向きの直感三角形にあたるフロント部分が左右に分かれていて、そのラインをカーブさせることで自在に膨らみを形成する、ボクサーパンツを参考することにした。


 図解するとこんな感じ。正面にちゃんと、ちんこのための空間が用意されている。
 これはよかった。とてもよかった。ちんこって実は体そのものよりもよほど個人差があるものだから、自分のちんこに合わせた専用のスペースを作ることは、とても有意義な行ないであった。作って穿いて、「小生には少々窮屈」と感じたならば、線を引き直せばいいのだ。こうしてスイムウェアを契機に、僕はフロント部を左右2枚で縫い合わせてちんこのための部屋を作るタイプのインナー作りに開眼してゆく。この顛末については「ビキニショーツ製作漫談 7 ~のび助計画の始動~」以降に詳しい。
 ただしちんこに寄り添う、ちんこがちんこでいられる、ちんこのための居場所を作ってやるのはいいけれど、スイムウェアには、インナーにはない懸案事項がある。
 前回の1にも書いた、コモンセンスの問題である。
 インナーは、誰に見せるわけでもないので、突き出させようと思えばいくらでも突き出させることができる。その最終形態として、「ビキニショーツ製作漫談 14」で紹介したフル勃起対応ショーツがある。
 でもスイムウェアはそれで、プールとは言え公共の場に出るものなので、そこまで突き出させてはいけない。最低限の公序良俗は守らなければならない。ここが難しい。ここが一番の悩みどころでしたね、と作者であるプロぺ氏は感慨深そうに語った。