ちんこ模型の歌を聴け


 ジョニファーの、肝心の股間部分に、ちんこ相応の膨らみがまるで表現されていないという問題について、振り返ってみたところ僕は、2022年の夏、それはジョニファーがわが家にやってきてわずかひと月半後のことだそうだが、その頃から対策を練り続けていた。
 最初に作ったのは粘土によるもので、どうも発想としては、ジョニファー・ロビンというマネキンに、後付けのアタッチメントとして、いっそ男性器の盛り上がりを固定して備えさせてやろうとしていた節がある。そのためジョニファーのもともとの股間の丸みに沿うように形を作った粘土に、僕は彩色を施していた。しかし工場で樹脂だかなんだかの素材に、自然な発色になるよう配合されたジョニファーの肌の色つやに、心得のない僕の手による、紙粘土に絵の具で色を塗った物体が馴染むはずもなく、それはなんだかとても気持ちが悪いものだった。さらにはテクニックもないのに、他の肌部分に較べ性器は色味が深く暗いものだという強いこだわりもあって、赤むらさき方面の色を希求した結果、ただの大便のような土茶色になったのもよくなかった。フロント部分とは言えショーツである。そこから大便のような物体が端からはみ出ている絵面は、なんとも言い難い嫌悪感があった。
 転機が訪れたのは年が変わった2023年の春である。のび助ショーツのプロジェクトが発足し、これはちんこをちんことしてのびのびさせることをコンセプトにしているため、それまでのような「股間部の膨らみ」の造形では、条件に満たなくなってしまった。生地によって押し潰されたものではない、ちんこ本来の形を表現する必要が出てきた。
 「ビキニショーツ製作漫談 10」として投稿された、当時の文章がこちらである。

 もっとも既に報告済みの事実として、これまでもジョニファー・ロビンには、手製の股間の膨らみを拵えていた。しかしそれは、これまでのガーリーライクをコンセプトにした、フロントを1枚布で作ったショーツによって、ある程度はそのボリュームを主張しつつも、しかし布の圧迫によって狭い空間に押し込まれた状態を表現したものなので、今回の「ちんこのびのびと」をコンセプトにしたのび助ショーツの着用図にはまるで使えない。前回の記事でも書いたように、ちんこは液体である。だからそれの模型もまた、器に合わせた形にしてやらなければいけない。
 というわけで僕は、のび助ショーツ用のちんこ模型作りに取り掛かったのだった。
 作り始める前にまず考えたのは、サイズに可動性が持たせられないか、ということだ。のび助ショーツの特長として、平常時には平常時なりに寄り添い、勃起時には勃起時なりに寄り添う、というのがある。これを表現するには、本物のちんこよろしくサイズを変えられる仕組みがあればいい。であれば、素材は1作目のように石粉粘土というわけにはいかない。
 それではじめに思い浮かんだのは風船だ。空気を注入および排出することによって、大きさを変える。それはもうほとんど人体の仕組みと一緒だろう。たぶんその機構で作られている人体模型はたくさんある。講習とかで使うような。しかし思い通りの形の風船を作る設備は持っていないので、これは断念した。
 次に、固まらない、何度も形を変えられる粘土と発想し、検索の結果、プラスチック粘土というものを見つける。これは粘土ではなく、要するにプラスチックなのだが、熱いお湯につけると柔らかくなり、何度でも変形させることができるという。下手な油粘土などだと、なにぶん布製品を密着させるので汚れの問題があるが、これならばその点も問題なさそうだ。これはいいと思い、ネットで注文した。
 そうして作る。作った結果、勃起したちんこをこれで作ろうと思ったら、注文した分量の3倍は必要になるし、だいぶ重くなるし、それになにより、熱いお湯で柔らかくなると言っても、塊が瞬時にグニグニになるわけではなく、湯に直接当たる表面がとろけるようになるだけのことで、平常時と勃起時を自在に行き来できるような、そんなAV男優のような機能性は望めない、ということが判った。

 この葛藤の末に、僕は発泡スチロールという結論へとたどり着く。たまご型や棒状の発泡スチロールでちんこを粗く形作り、それだけだとカクカクするので、その表面をプラスチック粘土でなめらかにコーティングするという手法である。
 これはのび助ショーツにおいて最適解であったと今でも思う。今後またのび助ショーツを作ることがあれば、平常時仕様、半勃ち仕様、そしてフル勃起仕様を問わず、またこれらのちんこ模型を用いることだろう。
 しかしその後、ジョニファーに穿かせるもの系の創作の主戦場がスイムウェアになってくると、僕の中でまた忸怩たる思いがくすぶり始めた。スイムウェアの撮影時にジョニファーの股間部に忍ばせていたのは、このようなものであった。


 肉棒と左右の金玉肉袋が淡く形作られ、肉棒部分も決して突出しない。公共の場に出るスイムウェアなのでそれは当たり前のことで、この淡さは度重なる模索の果てである。主張と自重のせめぎ合い。これでスイムウェアの一連の画像を作り出していた。また最近になってまた再開の兆しが見えるガーリーショーツに関しても、この模型を使用していた。これはこれで、よくできた形なのだ。
 それでは忸怩たる思いを抱く理由はどこにあるかと言えば、引用文の中にもあるように「ちんこは液体」であるからして、のび助ではない、生地によって大なり小なりちんこが圧迫される形になるスイムウェアおよびショーツの場合、やっぱりちんこは柔らかくなければならないのではないか、ということである。発泡スチロールにプラスチック粘土コーティングでは、はじめに任意の形は作れても、それは固定されてしまう。ちんこってそうじゃない。勃起しているちんこは固い。だから発泡スチロールでいいけれど、平常時のちんこはグニグニしていなければ嘘だ。ニット生地の伸びと、ちんこの変容が織り成すマリナージュこそが、この創作の骨子であろう。
 そんな難題を抱え懊悩しながら生きる父の目に、末の娘が無邪気に遊ぶ姿が眩しい。末の娘は指先を動かすのがとにかく好きで、最近のブームと言ったらなんと言ってもスラ……、…………えっ? 待てよ? もしかして、僕がこれまで追い求めていたものって、これなんじゃないのか?

つづく